『カイゼン・ジャーニー』まとめ --第1部 一人から始める--
去年から QA として働き始め, 約一年半経ちました。QA として働くにあたり, 基本的な入門書等々はもちろん読んだのですが, それら入門書ではそこまで触れられない「アジャイル」を推進し, 実践している (あるいはしようとしている) 様子が, 社内外の SNS や 勉強会などから見えていました。
今のようにリモートワークがメインとなる前, 社内で別のチームが利用していた隣のスペースには, カンバンやタスクボードが並び, ファイブフィンガーでその日の調子を測り, モブプログラミングでワイワイと開発をし, そして毎週のように社内ラウンジでスプリントの成果のデモなどをしていました。
一方で私が所属しているチームでは, スクラムを取り入れていなかったため, 私はスクラムの経験値が全くありませんでした。これは, 私の従事する「インフラ改善」が, あまりスクラムとマッチしない, スパンが短く, 粒度が小さい開発物が主なためです。今だから隣のチームがやっていたことがスクラムの手法とわかるのですが, 経験のない私には「なにかおもしろいことやってるな」くらいに思いつつ, 自分の仕事を進めるのに必死でした。
それからしばらく経ち, そろそろ当初よりは周りも見えてきたので, よく聞くけど実態を理解できていない「アジャイル」を勉強してみよう, と考えました*1。同じチームのメンバーの机に『カイゼン・ジャーニー』が立っていたことを覚えていたので, その人に本の感想を聞いて, 自分でも情報を集め, 買って読んでみました。
結論から言うと, 非常に読みやすく, 勉強になる本でした。この業界でよく見聞きする様々な問題に悩まされ, 疲弊した開発者を主人公とした, 小説仕立てのストーリーを軸に, アジャイルの解説が展開 されます。この主人公がアジャイル手法を取り入れて, 失敗もしながらもカイゼンを進めていく, というストーリーを展開しながら, 各話で触れられた手法を第三者視点で解説する, という構成となっています。読み進める中で, 主人公や他の登場人物に共感をを覚えるポイントが多々ある人も多いと思います。
『カイゼン・ジャーニー』は三部構成となっており, 第一部が「一人で始めるカイゼン」, 第二部が「チームで始めるカイゼン」, そして第三部が「別の部署やクライアントなど, ステークホルダーを巻き込んだカイゼン」となっています。
折角の良い本だったので, 内容のまとめと学びをアウトプットしておこうと思います。
前置きが長くなりましたが, ここでは第一部「一人から始める」について書きます*2。
チーム・ジャーニー 逆境を越える、変化に強いチームをつくりあげるまで
- 作者:市谷 聡啓
- 発売日: 2020/02/17
- メディア: Kindle版
第一部の学び
自分はカイゼンのための行動を起こしているか
作中, 主人公が勉強会で出会ったアジャイルの先達の発表に刺激を受け, 懇親会で興奮して話をしに行った際, 「あなたは何をしている人なんですか」と問われる。主人公は答えに窮し, 不平不満を述べるだけで自分から行動していなかったことに気づく。
「何をしている人か」の問いは抽象的で, 中々答えられないのではと思います。しかし, この文脈を踏まえて換言すると, 「カイゼンのために何をやっているのか」とできるのではないでしょうか。
学び
- 自分は今, カイゼンのための行動を起こせているだろうか
- 考えるだけでなく, 行動を起こそう
- 狭くなった視野を広げるために, 刺激を受けるために, 外の勉強会に出よう
- もちろんそこで聞いたものは文脈ありきなのでそのまま適用せず, 自分たちの文脈化ならどうするかを考えよう
カイゼンは状態の見える化から始める
カイゼンのための具体的な手法として以下が述べられています。ここでは, 後で詳しく紹介する手法の頭出しといった感じでした。
- タスクマネジメント
- 仕事の背景や目的を理解
- タスク分割やスケジュール管理
- タスクボード
- タスクの状態に応じたステージを用意し, 計画・日々の変化を見える化
- 朝会
- タスクボードに変更を反映
- 決まった時間・場所で行うことで異変発生時に察知しやすくする
- ふりかえり
- 仕事のやり方や結果を棚卸しして次に活かす
- 直接的なカイゼンの機会になるのでより重要
学び
- 状態の見える化が第一歩
- 繰り返す中でのふりかえりでカイゼンサイクルを回す
- カイゼンは小さく始める, その上で「許可を求めるな謝罪せよ」
ふりかえり
手法の 1つ目, 「ふりかえり」の紹介がされています。形は違えど「ふりかえり」と呼べそうなものを実践している人も多く, 主人公もその一人でしたが, 改めてその「ふりかえり」が本当に有意義なものになっているかを見直し, 改める過程が描かれます。
ふりかえりの目的
- プロセス のカイゼン
- 不確実性の高い状況下でも前進する
KPT (Keep, Problem, Try) フレームワーク が一例
- K: 続けたいこと
- P: 「もやもや」「気にかかる」レベルを含む問題点
- T: 優先度をつけた次に取り組むこと
具体的な対策を出す
- チームで行い, 見落としや面倒な問題の無意識の回避を避ける
学び
- ふりかえりはあくまで 前進するため に行う
- 個人よりもチーム で行い, 効果を高める
タスクマネジメント
手法の 2つ目, 「タスクマネジメント」の紹介です。主人公の現場では, 上流からくる一部曖昧さを残す依頼内容や仕様に対し, 完成形が見えないまま実装を進めた結果, 結合試験になって大量のバグが出る, ということが繰り返されていました。この大きなコストを解決するため, 「大きすぎるタスクを分割して統治する」という方法に至ります。
- タスクにまつわる問題
- やるべきことの 管理がずさん
- 完成形が描けないまま進めてしまう
これらを解決するため, タスクマネジメントを行う
タスクマネジメント
- タスクは 1日程度で終わる粒度に分割 する
- カンバンやタスクボードで タスクの状態を見える化 する
緊急・重要のマトリクスで四象限に分類 (『7つの習慣』より)
- スキルアップなどの, 重要かつ緊急性がないものに時間を費やせるようにする
「多忙さだけで働いていると勘違いしてはいけない, 顧客に価値を届けることが本来の仕事」
学び
- タスクの粒度は 小さく分割 する
- 管理・着手しやすくなり, 認識違いも減る
- 緊急・重要のマトリクスでの分類も有用
- 重要かつ緊急性がないものに時間を割けるよう意識して管理 していく
- 多忙なだけ ≒ タスクが多いだけでは必ずしも価値につながらない
朝会
手法の 3つ目, 「朝会」の紹介です。主人公のチームでは, 朝会がリーダーが一方的に気になることを言う・聴く進捗報告の場になって, 結果的にメンバーの参加意欲も低く, 朝会が廃止されていました。しかし本来的には情報共有の貴重な機会であるはずなので, 誰も参加しなくなった朝会を一人で再開し, より良いあり方を見直しています。
- 朝会
- 昨日やったこと, 今日やること, 困っていることを共有する
- 困っていることが特に重要
朝会の目的を達成できるようにするためにも, 1 on 1 などで信頼関係を築く
もちろん 1 on 1 単体でも効果はある
- 1 on 1
- メンバーと対話
- 信頼関係を築く
学び
- 高頻度で自分を含めメンバーの状況を共有
- ただしこのときに 話しづらい雰囲気があってはいけない, 形骸化しないよう 1 on 1 なども使って信頼関係を築く
タスクボード
手法の 4つ目, 「タスクボード」の紹介です。自分が持っているタスクの管理はできるようになってきた主人公ですが, 人に受け渡したタスクの管理ができていないことで, 次のステップが進まない, 急に複数タスクが返ってきてキャパシティを超える, といった問題が起きていたため, 他人に渡したタスクも含めた管理を始めます。
タスクの受け渡しを行うとそのステータスを見失いがち
タスクボード
- Parking Lot (Ice Box): タスクをためておく場所
- TODO:直近で必要なタスク
- Doing: 実行中のタスク, スイッチングコストを避けるため原則 1つ
- DONE: 完了したタスク
他人に渡したタスクも自分のタスクとして捉える
- ふりかえりでタスクボードを眺めるようにする
- 緊急割込みレーン: 緊急タスクを置く場所, これで可視化できる
学び
- タスクのステータスもそれぞれ可視化しておく
- Parking Lot と TODO を区別する
- 仕掛中のタスクの数に制限を掛けることでスイッチングコストを抑制する
二人以上で取り組む効果
これまでの取り組みで一程度の効果を実感している主人公ですが, 結局一人で行う限界にぶつかります。しかし, 多忙なチームはこの取り組みを理解してくれない。主人公は, 冒頭でアジャイルの先達と出会った勉強会が今年も開催されることを知り, 自社に戻らない可能性も頭に浮かびつつ他の現場の状況を知ろうと, 唯一主人公の取り組みに興味を持ってくれていた他チームのメンバーと出かけます。
XP 創始者, Kent Beck 著 "Extreme Programming"
- "XP is about social change."
行動を始めると気付いた時が最速のタイミング
- 行動の変化は伝播していく
二人以上で進めることで, 建設的相互作用が生まれる
学び
- 行動の変化が周りに伝播し, 大きな変化につながる
- 二人以上で進めるようになるとポジティブな変化も起きる
越境
主人公は, 前話で一緒に勉強会に出席した同僚と, 勉強会で受けた刺激から社内勉強会を開くことを決意します。そこで, これまで自分が行ってきた取り組みを紹介します。
- 魅力的な取り組みも文脈や背景を理解して, 自分たちの文脈において判断・応用する
新しいことは小さく始め, リスクを小さくしておく
個別の事象は氷山の一角
- Peter M. Senge 『学習する組織――システム思考で未来を創造する』
- 表象化した事象 <- 変化や行動のパターン <- 構造・仕組み <- 関係者のメンタルモデル
- この階層関係を意識して分析することで根本的な問題解決につなげることが可能
学び
- 周りの人も大抵は現状を変えたいと思っている
- 行動を起こすことでその影響は周りに伝播する
- ただし文脈や文化, 根底に流れる背景を理解した上で取り組み, 小さく始め, リスクヘッジに注意する
まとめ
第一部ではこのように, 現場に疲弊した主人公が周囲にカイゼンの理解者がいない状態から, 一人でカイゼンを進めていきます。主人公が失敗しながらも試行錯誤して取り組む様子がストーリーで描かれているため, 自分の現場でも取り入れてみよう, と思わせるようになっていると思います。
しばらく間は空くかもしれませんが, いずれ第二部, 第三部もまとめておきたいです。同著者による『チーム・ジャーニー』も出版されており, そちらはまだ読んでいないのですが, そちらも楽しみです。
チーム・ジャーニー 逆境を越える、変化に強いチームをつくりあげるまで
- 作者:市谷 聡啓
- 発売日: 2020/02/17
- メディア: Kindle版